September 17, 2020

太陽光への出力抑制率が12%に、季節を超えた貯蔵に期待 「揚水式水力」が長周期のエネルギー貯蔵として再評価(後半)

Published at Nikkei Technology Mega Solar Business

「古いものが新しい」

 米国水力発電協会(National Hydropower Association:NHA)は、「全ての古いものが、また新しい」と、水力発電のカムバックを表している。その意味するところは、 発電源としてだけでなく、水力を「貯蔵」として捉えている。揚水式貯蔵は、米国で最も大規模で、最も古いエネルギー貯蔵テクノロジーなのだ。

 ちなみに、日本の電気事業連合会によると、揚水式水力発電は、「発電所の上部と下部に大きな池(調整池)をつくり、電力需要の多いときは上の調整池から下の調整池に水を落として発電し、発電に使った水は下部の調整池に貯めておく 」となっている。さらに、「日本では特に夏の昼間にはエアコン、屋内照明などに最も多くの電力が必要とされている。一方で、夜は逆に電力消費が少なくなる。そこで、電力需要の少ない夜間に火力・原子力発電所の電力を利用して、揚水発電下部の貯水池から上部の貯水池まで発電用水を汲み上げ、再び昼間の発電に使う」と、解説されている。

 米カリフォルニア州では、「温室効果ガス(GHG) 排出フリー電源システム(ゼロ・エミッション)への移行」を達成するため、太陽光発電の導入拡大と化石燃料による火力発電所の廃止を同時に進めている。そんな、同州にあっては揚水式貯蔵の位置づけが日本と違う(図1)。

図1●カリフォルニア州にある揚水式貯蔵の1つ(出所:The Walsh Group)

太陽光で昼間に水を組み揚げ

 電力の供給が高い太陽が照っている時に、下部調整池に貯まった水を上部調整池にくみ揚げ、電力需要の高い太陽が沈んだ後に、上部調整池にためられた水を下部調整池に放水し、電力を供給する。

 昼間の太陽光発電による余剰電力を活用して、水を組み揚げ、夕方の電力ピーク時に水を落として発電する。この活用方法により従来の蓄電池とは比較にならない量の電力を貯蔵することかができ、さらに、夜間の火力発電や原子力発電の削減にも繋がり、真のGHG排出フリー電源システムが形成できる。

 このモデルが現在成り立つのは、太陽光発電導入拡大により、太陽光発電の供給と実際の電力需要のミスマッチが起こっているからだ。カリフォルニア州では、需要ピークは太陽光の出力が減少する夕方から夜になる。需要の小さい昼間に大量に発電する太陽光発電は、過剰供給を起こし、出力抑制の対象となってしまう。昼間の太陽光発電の出力を抑制すると同時に、夕方にかけて急に立ち上がるピーク需要を満たすため、化石燃料による火力発電を稼働させると、 本来の意図と反対にGHGの排出量を高めることになる。 ...Read More Here

September 7, 2020

太陽光の大量導入を支える「古いテクノロジー」!? 「揚水式水力」が長周期のエネルギー貯蔵として再評価(前半

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長周期」の調整力不足が露呈

 このコラムの前回記事(米加州で大停電!、再エネ導入で前進も系統の安定運用が後手に)で、米カリフォルニア州が「温室効果ガス(GHG) 排出フリー電源システム(ゼロ・エミッション)への移行」を達成するため、太陽光発電の導入拡大と化石燃料による火力発電所の廃止を同時に進めるが故に、系統運営に問題が生じている実態を取り上げた。

 一方、昼間に太陽光発電からの電力を充電し、夕方のピーク時に放電できるリチウムイオン電池がメインとなるエネルギー貯蔵テクノロジーが、天然ガス火力の代替に再エネを増やしていく上で重要な役割を果たす、という方向性をこれまでのコラム記事で再三、触れてきた。

 住宅用蓄電池、さらに発電事業用のリチウムイオン電池と言えば、米国の著名起業家で、話題に事欠かないイーロン・マスク氏の創業した企業「テスラ」がまず頭に浮かぶであろう。

 テスラの住宅用蓄電池「パワーウオール」、発電事業用蓄電池「パワーパック」は、革新的な蓄電テクノロジーとして、人をワクワクさせ、市場を斬新に変え、大きなシェアを占めることが期待されるものだ。

 しかし、今回、カリフォルニア州で起きた大規模停電で、重要性が評価されたのは、こうした新タイプの蓄電テクノロジーばかりではない。大停電で、明らかになった課題の1つは、長時間での需給バランスの改善に効果のある「長周期エネルギー貯蔵」の必要性である。こうした長周期エネルギー貯蔵テクノロジーで最も活用されているのは、実は「古いテクノロジー」である揚水式水力発電である(図1)。

図1●米加州で最大規模の揚水式水力発電 (1212MW) が導入されているウイスホン湖
(出所:California Energy Commission)


蓄電池の貢献は「ゼロ」!?

 米国でエネルギー貯蔵市場が立ち上がった当初は、調整力市場を通じて、短時間の充放電で生み出した調整力を系統運用事業者に提供する「アンシラリーサービス」がメインで、同サービス用には、「短周期」向け需給改善システムが活用された。

 近年では、カリフォルニア州やニューヨーク州など多くの州政府がエネルギー貯蔵設備の導入を義務化し、 昼間に太陽光発電からの電力を充電し、夕方のピーク時に放電する「シフト目的」の長周期対策での使用が拡大している。しかし、昼間から夕方以上のもっと長期の時間、または数日をカバーできるエネルギー貯蔵が注目され始めた。... Read More Here

August 25, 2020

米加州で大停電!、再エネ導入で前進も系統の安定運用が後手に 「世界5位の経済大国」でも、電力網は発展途上国以下!?

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「革新的な州にとって容認できない」

 依然として、世界を脅かす新型コロナウイルスで自粛ムードが続く中、米国では8月中旬に突然、猛暑が訪れた。とはいえ、夏なのだから当たりのことにも思える。

 そんななか、世界をリードするハイテク企業が集まるシリコンバレー、世界を魅了するエンターテイメントが生まれるハリウッドなど、世界の先端を走るカリフォルニア 州で、何と電気の供給不足で、停電に陥ってしまったのだ。

 カリフォルニア州を1つの国だとすれば、その経済規模は英国を上回り、米中日独に次ぐ世界5位に相当する。そんな先進経済大国で、猛暑によって停電が起きた背景には、どんな事情があったのか。電力系統は、途上国並みということなのだろうか。

 同州のギャビン・ニューサム知事は今回の停電を「国の最大かつ最も革新的な州にとって容認できない、不適合」と表現した(図1)。


図1●電力の専門家と今回の電力不足の緊急会議を行うカリフォルニア州知事(黄緑色の囲み内)
(出所:Office of Governor Gavin Newsom)


 国内のメディアでは、不十分な電力供給のために同州が計画停電を実施することは、2001年のエネルギー危機以来、ほぼ20年ぶりと報道されている。だが、実際には、「停電」に関して言えば、もっと頻繁に起こっている。

停電すると自家発電機がうなり声

 筆者はサンフランシスコから南に車で約1時間の、空高くそびえ立つ赤スギで有名な州立公園近くに住むが、ここ数年間で何回停電に見舞われたか、とても数え切れない。

 強風が吹くと停電。雨が続くと停電。乾燥が続くと停電、と言った具合だ。

 特に、強風と乾燥が重なった場合、老朽化して整備の不十分な送電線が火元になり大規模な山火事を起きるのを防ぐため、数百万人の電力を停止するという意図的な停電も起こる(図2

 こんなに脆い電力網を持つのは、米国内のみならず、世界でもトップ規模の大手電力会社パシフィック・ガス&エレクトリック(PG&E)なのである。こんな状態であるから、地域の住民のほとんどは自前のジェネレーター(自家発電機)を持っており、停電とわかると、各自外に出て、ジェネレーターをブルンブルンと稼働させるのである。停電が2時間続くのか、2日以上になるのかも分からない、全く発展途上国のような生活になる。

「複数の災厄」で破滅的に

 問題の停電は8月14日の夕方に始まった。

 カリフォルニア州の送電系統を管理するカリフォルニア独立系統運用機関(CAISO)は、停電後、初めての公的な声明で、今回のイベント(停電)を「パーフェクト・ストーム」と表現した。これは、「複数の災厄が同時に起こり、破滅的な事態に至ること」を意味する。Read More Here

August 16, 2020

「草花に囲まれた」メガソーラー、周辺農家と共存共栄 発電所内に在来種を育て、ハチの繁殖を促す

 

「ポリネーター」の繁殖を促す

 米国食用鶏肉生産・加工大手のパーデュー・ファームズ(Perdue Farms)の本社が隣接する土地に、年間発電量3700MWh、出力2.8MWの地上設置型のメガソーラー(大規模太陽光発電所)がある。太陽光パネルの周りには、ブラックアイドスーザン、アルシケクローバー、ノコギリヒマワリ、細い葉のトウワタ、パープルコーンフラワーなど、地域の在来植物を含む41種類の異なる花や草が植えられている。

 2018年に播かれた植物の種は今年2020年の春にようやく花を咲かせ、今年6月、メリーランド州サリスベリに本社を構えるパーデュー・ファームズは、「ポリネーター(花粉媒介者)に親切な」太陽光発電設備を米国鶏肉生産産業で最初に導入した会社と発表した(図1)。

図1●ハルシャギク、セイヨウノコギリソウが生える「ポリネーターに優しい」太陽光発電設置
(出所:Perdue Farms)

 米農務省によると、米国の農家が作物の受粉を依存しているミツバチなど、 ポリネーターが大幅に減少しているという。農家は、この深刻なミツバチ不足に悩まされているのだ。

 米エネルギー省のプロジェクトの一環として、アルゴンヌ国立研究所は、太陽光発電設備の周りのエリアが、ポリネーターに有益な植物を生息させる理想的な場所であることを見出した。そうしたなか、ここ数年、米国では、ポリネーターの生息地を保護するために、「ポリネーターに優しい太陽光発電」の開発が進んできている。

「周辺農家にも役立ちたい」

 今年で、創立100周年を迎えたパーデュー・ファームズでサステナビリティ部の副社長を務めるスティーブ・レビッツカイ氏は、「太陽光パネルを敷き詰めた5エーカー をポリネーターに優しい生息地にすることは、考えるまでもないことでした」と語る。

 さらに同氏は、こう続けた。「現在、ポリネーターの生息が、同社の鶏の育成に重要な成分の1つである大豆、そして様々は果物や野菜の収穫を増やすのに重要な役割を果たすのは多くの研究で立証されています。そのため我々は地球環境問題への貢献だけでなく、本社付近の農家にも役に立とうと考えたのです」

 「従来、太陽光発電の架台の下は、砂利や草で覆われていますが、こうした地表面の管理は、ポリネーターの生息地を新たに作り、維持するコストとほぼ同じなのです。ポリネーターにとって有益なグラウンドを作ることは経済的な障害にはなりません。これらの利点から、我が社では、今後の太陽光発電導入には『ポリネーターに親切な』グラウンドを設ける計画です」――。...Read More Here