August 22, 2017

米「皆既日食」、 太陽光の出力急変にグリッドが見事に対応! 周到な準備で、天体イベントの課した「信頼性試験」に合格

Published at Nikkei Technology Online --- 全米が壮大な天体ショーに沸く

 「グレイト・アメリカン・エクリプス(全米横断皆既日食)」――米国全土はこの日沸いた。皆既日食は、8月21日の午前10時20分ごろから西海岸オレゴン州で始まり14の州を横断し、東海岸のサウスカロライナ州で観測された。

 「一生に一度」のイベントとし、皆既帯に位置する町々には全米、世界の至る所から人が集まった。NASA(米航空宇宙局)を始め、テレビ、ネットでは、ほぼ3分刻みで起こる太陽が月で完全に塞がれる「完璧な闇」と太陽を取り巻く外層大気である「コロナ」のライブストリーミングを行った。

 その壮大な天体ショーを相手に、米国のグリッドは信頼性を保つことに見事に成功した。これは、電力会社、送電系統管理機関、発電事業者などの綿密な計画を立て、十分に準備が整っていたことによるだろう。

太陽光出力の減少幅は予想超える

 カリフォルニア州は皆既食帯ではないものの、同州北部では76%、南部では58%の部分日食の範囲に入っている。部分日食といえども、米国で太陽光発電の設置容量で50%以上を占める同州は日食で、電力供給で最も大きな影響を受けるとされていた。

 カリフォルニア州の広域系統運用を行うカリフォルニア独立系統運営機関(California Independent System Operator; CAISO)によると、日食により、4.2GWの発電事業用メガソーラーと1.3GWの分散型太陽光発電が一時的に出力を失うと予想されていた。CAISOはこのイベントに備え、 起動、調整力と柔軟性に優れた発電源である水力発電と天然ガスを燃料とした火力発電、そして蓄電池を確保した。

 さらに同州の各電力会社は、太陽光発電の出力ロスによる供給不足を和らげるため、電力需要者に、電気自動車(EV)の充電や洗濯機・食器洗浄機の使用を控えるなどの省エネを呼びかけた。

 当日、日食の始まる午前9時すぎから、日食中心時刻の10時20分の約1時間に、発電事業用メガソーラーの出力は約6400MW(6.4GW)から3000MW(3GW)に減少した。これはCAISOによる前日予測の4600MW(4.6GW)を下回り、減少幅は3400MW(3.4GW)に達した。日食中心時刻後に出力は回復し、太陽が最も高く上がる午後1時には9600MW(9.6GW)を超えた(図2)。... Read More Here
図2●上:2017年8月21日、カリフォルニア州の太陽光発電出力量(黄色線)
下:カリフォルニア州ロサンゼルスにおける部分日食の様子、10時21分が日食中心時刻
(出所・上:CAISO、下:Griffith Observatory)

August 16, 2017

8月21日の米横断「皆既日食」、試されるグリッドの信頼性 太陽光の出力急変に備え、水力・火力で迅速な調整を準備

Published at Nikkei Technology Online --- 米本土で38年ぶりの皆既日食

 2017年8月21日 は、米国本土で1979年以来38年ぶりとなる西から東へと横断する皆既日食を見ることができる 。 オレゴン・アイダホ・ワイオミング・ネブラスカ・カンザス・ミズーリ・イリノイ・ケンタッキー・テネシー・ノースカロライナ・ジョージア・サウスカロライナの計14州で月が太陽の前を完全に塞ぐ皆既日食の観測が見込まれている。その時間は約90分。このイベントにより、全米の太陽光発電は一時的に出力減少、または停止するとされている。

 米国エネルギー省・エネルギー情報局(EIA)によると、日食は21GWに及ぶ電力事業用メガソーラー(大規模太陽光発電所)に影響を与えるという。太陽が100%月で塞がれる皆既日食の影響を受けるのは主にオレゴン州で稼働する0.07GW、90%以上の部分食は4.01GW、80%は2.20GW, 70%は3.94GW, 60%は9.79GW, そして50%の部分日食で出力に影響が出るのは1.65GWとなっている(図1)。
図1●2017年8月21日の皆既日食の米国経路地図と事業用メガソーラーの位置とサイズ
(出所:Energy Information Administration)

カリフォルニア州は「部分日食」だが…

 カリフォルニア州は皆既食帯ではないものの、同州北部では76%、南部では58%の部分日食の範囲に入っている。部分日食といえども、米国で太陽光発電の設置容量で50%以上を占めるカリフォルニア州は日食で最も大きな影響を受けるとされている(図2)。

 前回、全米を横断する皆既日食が起こったのは1979年。当時、カリフォルニア州の送電網に接続されていた太陽光発電は、ほぼゼロ。現在、同州の送電網には約10GWの太陽光発電が接続されていて、ピーク需要の30〜40%を賄うまでになった。さらに、同州の配電網には5.8GWの屋根置きを含む分散型太陽光発電も接続されている。

 カリフォルニア州の広域系統運用を行うカリフォルニア独立系統運営機関(California Independent System Operator; CAISO)によると、日食により、4.194GWの発電事業用メガソーラーと1.365GWの分散型太陽光発電が一時的に出力を失うと予想されている。..Read More Here

August 7, 2017

米家庭用蓄電池、主導権を狙い有力企業が合従連衡 テスラ、LG化学、メルセデスが全米トップ3の施工業者と提携

Published at Nikkei Technology Online --- テスラのソーラーシティ買収が引き金

 米国で家庭向けに太陽光発電システムと蓄電池システムを併用する市場が立ち上がってきた。こうしたなか、蓄電池メーカーが太陽光発電システムの大手インストーラー(施工業者)との合従連衡を進める動きが激化してきた。

 急先鋒は電気自動車 (EV) と蓄電池メーカーの米テスラである。同社は2016年、米国住宅用市場でシェア1位の米ソーラーシティ(SolarCity)を買収し、定置型蓄電池の販売ルートを太陽光発電市場へ拡大した。ソーラーシティは、「初期費用なし、電気料金即削減」という 「第3者所有(Third-Party Ownership:TPO)モデル」で急成長していた。

 この買収により、米国太陽光発電市場における提携関係に変化が起こった。

 これまで米国の住宅向け太陽光発電システムのインストーラーは、コスト削減と供給確保のため複数の太陽光パネルメーカーと契約を結んできた。

 だが、蓄電池に関しては「独占契約」を選択し始めたのである。ナンバー1のソーラーシティがテスラと独占契約したのに続き、ナンバー2の米サンラン(Sunrun)は韓国のLG化学(LG Chem)と、ナンバー3のビビントソーラー(Vivint Solar)はドイツのメルセデス・ベンツと提携した(図1)。

図1●米国住宅用太陽光発電市場における蓄電池で競争を繰り広げる
テスラ(左)、LG化学 中央)、メルセデス(右)の製品
(出所:テスラ、LG化学、メルセデス・ベンツ)


政策の変わり目がビジネスチャンス

 太陽光発電システムと蓄電池システムの併用が脚光を浴びるようになった背景には、政府の政策の変化がある。

 これまで、ネットメータリング(余剰電力買取制度)などの再生可能エネルギーを拡大するための政策によって太陽光市場は飛躍的に拡大した。しかし、太陽光の大量導入により、電力会社は系統網の電圧や周波数が不安定化する問題に直面することになった。

 さらに、電力会社は、「ネットメータリング制度による余剰電力買取の増加で、太陽光を所有しない電力需要家の負担金額が増え不公平が生じている」と主張し、同制度の大幅な改正に乗り出した。その結果、電力会社の系統網に連系する太陽光の経済メリットが下がり、蓄電池の併用による「自己消費モデル」への移行が模索され始めた。

 ハワイ州では、2015年10月にネットメータリング制度が廃止され、それに代わって、「自己供給」と「グリッド供給」という系統接続オプションが導入された。

 「自己供給」とは、太陽光の全発電量を自家消費するもので、蓄電池が必須になる。「グリッド供給」は余剰分を系統網に流せるものの、買取量に制限があり、これまでの小売価格よりかなり低い価格で買い取られることになった。

 サンランは2016年5月、ハワイ州を皮切りに「ブライトボックス(BrightBox)」という太陽光・蓄電池の併設サービスを開始した。同サービスは、月単位で支払うリース(20年)、事前に支払うプリペイドリース(20年)、購入・ローンという3種類の支払いオプションを用意している。...Read More Here